全国保育団体連絡会

国民一人一人の基本的人権最優先の政治への転換を強く求める(談話)

国民一人一人の基本的人権最優先の政治への転換を強く求める(談話)
―コロナパンデミックを社会のみんなの力で乗り越えるために―
2021年9月16日
全国保育団体連絡会会長 大宮勇雄

 今夏、新型コロナウィルス感染症が爆発的に拡大し、重症化した人々で病床は満杯になり、呼吸困難に陥っても医療を受けられない崩壊状態に陥りました。重症患者以外の入院を制限し自宅に事実上放置するという政府の最悪の対応に対して、国民の間には底知れない不安と強い怒りが広がっています。昨年以来、感染の波は何度も繰り返し、そのたびに大きくなっています。感染症に関する国際的知見からかけ離れた政府の「無為無策」が招いた危機と言わざるを得ません。

 保育の現場にも大きな困難が降りかかっています。
 感染力の強いデルタ株によって、子どもへの感染や家族内感染が広がっています。休園や集団感染が相次ぎ、大きなリスクと向き合いながら保育せざるを得ない状況です。万全の感染対策を心がけているとはいえ、幼い子どもたちの生活の場という性質上、「密」を避けるのは困難です。従来からの慢性的な人手不足に加えて濃厚接触やワクチン副反応などによる職員の休職も増える中、増え続ける業務に対応した体制がとれなくなっています。

 一方、家庭の暮らしや子育ても窮地に追い込まれています。
 子育て家庭の暮らしは、感染の広がりと長期化の中で女性の雇用が急減するなど、いっそう厳しいものとなっています。休園や休校が相次ぐ中、家庭の困難や悩みを見るにつけ、保育園はできる限り開所しなくてはならないと痛感すると同時に、そうした使命感だけでは限界があり、家庭で安心して子どもを見守れるような休業補償などの支援がもっと充実強化されなくてはならないと痛感しています。現状では、家庭でのケアを支える補償があまりにも脆弱です。

 家庭と保育園の双方がこうした苦境に陥っているのは、感染力の強いデルタ株だけが原因ではありません。保育園でのケアと家庭でのケアの双方をしっかりと守るという方針が、政府のコロナ対策の基本に位置づいていないことに原因があります。「ケアは自己責任で」という政府の姿勢を根本から転換する必要があります。

 保育をはじめとするケアは、社会の経済活動にも、家庭の生活にとっても、死活的に重要な働きをしています。家庭ではその労働の多くを女性が無償で担い、家庭外では、社会的な保育を不十分な賃金と条件の下で職員が担っています。コロナパンデミックのもとでの政策や対策は、すべての人々に、平等に、すべての活動分野を網羅した包括的なものでなくてはなりません。そしてその内容は、人権が守られた、持続可能な社会の実現につながるものでなくてはなりません。

 この冬にはさらに大きな感染の波がやってくると懸念されています。
 科学的知見に基づく基本的な感染対策の徹底、医療体制の抜本拡充、生活と就労支援の強化など、科学的包括的な政策への転換が何より必要です。そのうえで、保育については、保育園と家庭双方のケアを政府の責任でしっかり支えるという基本姿勢にたって、以下のような方策を講じることを求めます。

 第一に、子どもは、家庭でのケアと保育園でのケア(保育)の双方を、必要に応じて十分に質が確保された形で、受ける権利をもっていることを対策の基本にすること。

 第二に、感染拡大や休園など、必要な時には、親が家庭で子どもをケアできるよう、家族支援(無償ケア労働への対価としての)、有給休暇の拡大、子育て中の就業者への直接給付の創設など、公的な補助・支援を行うこと。

 第三に、保育園に対しては、十分な感染予防ができるだけの保育条件(中でも、少人数保育を可能にする人員と空間の確保が欠かせません)を公的な責任で早急に整えること。休園の際には十分な補償を行うこと。
 また、保育職員に対する迅速なワクチン接種、PCR検査を定期的に行えるような補助、科学的な知見に基づく安全な保育実施に関わる情報の公開など、科学的で総合的な対策をとること。

 第四に、20年以上続いている「規制緩和政策」によって、保育をはじめ医療・福祉・教育などの分野では、処遇低下・人員不足・条件悪化が顕著になってきています。それが、今回のコロナ禍での保育現場の人的ひっ迫や困難に拍車をかけていることは明らかです。「規制緩和政策」を根本から転換して、「家庭と社会双方の存続に必要不可欠」という保育の役割を十分果たせるよう、職員処遇と保育条件(職員配置や面積基準など)の抜本的改善を進めること。

 新型コロナウィルスとのたたかいはまだ続きます。それだけに、社会の根幹を形作っているエッセンシャル・ワークと家庭の子育ての価値を正当に評価し、その条件基盤をより強固なものにしなくてはなりません。私どもも、コロナ禍の下で子どもを守り家族を守るために、そして子どもたちが安心して育つことができる保育と社会を実現するために、広く関係者の皆様と連帯しながら尽力してまいります。