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【13.06.18】待機児童解消実現に向けて 「横浜方式」に対する見解と私たちの提言

2013年6月18日
待機児童解消実現に向けて
「横浜方式」に対する見解と私たちの提言

全国保育団体連絡会

 2013年5月20日、横浜市は、待機児童がゼロになったと発表しました。2010年4月には全国最多となる1552名もの待機児童を抱えていた同市の「待機児童ゼロ宣言」に、大きな社会的関心が寄せられています。営利企業の参入や保育コンシェルジュの設置、土地と業者のマッチング作業などをとりいれた横浜市の施策は「横浜方式」と称され、それを評価する報道があり、また、国も「横浜方式」を参考にした政策を推進しようとしています。
 全国保育団体連絡会(以下、全保連)は、待機児童問題について積極的に取りくんできた団体として(i)、横浜市の取りくみは評価すべき点があるものの、待機児童の考え方や保育の質などに問題があると考え、「横浜方式」に対する見解と私たちの求める待機児童解消策を表明することといたしました。

【評価したい点】

「横浜方式」の注目すべき点は、大幅な予算の増額と認可保育所の増設にあります
 横浜市は、認可保育所の増設に積極的に取りくんできました。2010年の436か所から2013年4月には580か所へと計144か所増、定員にすると約1万人の入所枠を増やしています。また、2012年度の保育関連予算も2010年度から166億円増の834億円と大幅に増やし、財政面からも積極的な支援を行いました。横浜市の待機児童が減少した最大の要因は、認可保育所の増設を図り、そのための予算をつけた点にあると考えます。
 なお、待機児童解消のために認可保育所を増設することは、自治体に保育の実施責任を課している児童福祉法24条から見れば当然の措置といえますが、多くの自治体が消極的ななかで横浜市が積極的に取りくんだこと、また、安心安全な保育施設を求める保護者の願いにこたえたことを評価し、他の自治体も同様の姿勢をもつべきと考えます。

【問題点】

 しかし、横浜方式については、下記の点で問題があると考えます。
待機児童「ゼロ」ではありません
 横浜市が待機児童ゼロを実現したかのように報道されていますが、待機児童ゼロではありません。保育所に入れず育休を延長した人や、横浜市から直接補助の出ていない認可外保育施設に入所している児童などをカウントしていません。また、2012年からは自宅で求職中の人を省くなどの操作もみられ、本当のゼロではないことを確認する必要があります。なお、2013年4月に認可保育所を希望して入れなかった人は1746名います(ii)

「量」は増えたものの「質」が保たれているとはいえない状況です
●認可保育所や横浜保育室が、国基準より低い基準で運用されています
 横浜市は、認可保育所の面積基準についてゼロ・1歳児一人当たり2.475uと、国の3.3uより低い基準で運用してきました。新設園については国基準で設置認可するとしていますが、既存施設については「当分の間」としながらも2.475uで運用しています。また、横浜市独自の基準で設置している横浜保育室についても、ゼロ・1歳児一人当たりの面積基準が同じく2.475uであり、また、有資格者の割合を3分の2でよいとするなど、国の認可保育所基準よりも低い基準で運用されています(iii)。質をないがしろにして量拡大を図ったという点で問題です。
 
●急速な営利企業の参入には不安があります
 「横浜方式」では、保育所への営利企業の参入を推進したことが注目されています。実際、全国的にみると企業立の認可保育所は全体の約2%ですが、横浜市は26%と突出しています。
 しかし、営利企業が運営する保育所では、会社が倒産したため突然閉鎖されたり、補助金を不正流用していた事実が発覚していたり、保育を充実させるために支給されている公費が子どものために使われていない実態があるといえます。
 また、社会福祉法人では、人件費比率は7〜8割が一般的といわれていますが、保育所を運営している営利企業のなかには5割と公言するところもあります。保育士の給与が低いため職員が定着しない、保育の質に直結するともいえる保育士の育成がはかられていない、などの問題があります。
 そのほか、この間、横浜市内で新設された企業立の保育所には、鉄道等の高架下に設置された園があるなど、子どもが育つ環境としてふさわしいのか不安や疑問を抱かざるを得ない現状もあります。
 営利企業の参入については、子どもの視点にたった保育が実施されるのかという観点から慎重に対応していくべきです。

待機児童を抱えながらも、公立保育所の民営化をすすめています
 横浜市は、2004年から2013年まで計36園もの公立保育所を民間移管し、さらに2017年までの3年間に1年2園ずつ、計6園の民間移管を計画しています。1700名近くの子どもが認可保育所を希望しながら入所できていない現状を踏まえると、市が直営する公立保育所を減少させていく姿勢に、本気で待機児童解消に取りくんでいるのか疑問を抱きます。
 公立保育所を活用しながら待機児童解消をすすめると同時に、社会福祉法人などには民営化の受託ではなく、新たな保育所の設置に専念させることで、より多くの子どもたちが認可保育所に入所でき、本当の待機児童ゼロにより近づけると考えます。

【待機児童解消に向けての提言】

 待機児童問題は、当事者の保護者にとっては生活を脅かす深刻な問題です。一刻も早い対策が必要ですが、保育の質を下げてまで解決することを望んではいません。子どもの育ちを支える保育所はどうあるべきなのか、どういう保育所が子どもにとって望ましいのかを常に考えながら保育所増設を図っていく必要があります。
 そこで全保連では、待機児童解消に向けて、以下の点について提言します。

@公立保育所も含めた認可保育所増設のための予算を増やすこと
 国は、待機児童が解消できないのは現行制度に問題があるとし、2015年から新制度を実施するとしています。しかし、現行制度でも予算をつければ認可保育所の増設が実現できることは、横浜市の事例から明らかです。いまやるべきは、制度改革ではなく予算をつけて認可保育所の整備に力を入れることです。
 また、全国的に公立保育所の民営化が加速しています。全額自治体負担となっている公立保育所の運営費のあり方を見直し、公立保育所運営費の国庫負担の復活や、安心こども基金を改善すべきです。 
 自治体も、保育の実施責任を課せられている児童福祉法24条にもとづき、公立保育所の維持・存続も含め認可保育所の増設とそのための予算を確保するなど、全力で待機児童解消に取りくむ必要があると考えます。

A国・自治体が責任をもって、子どもに最良の保育環境を確保すること
 保育の質の維持・向上のためには、保育環境の整備も必要不可欠です。待機児童の多い都市部では、土地がないなどの理由で、面積基準が緩和されたり、ビルの一室や高架下、産廃置き場に隣接した場所などに保育所がつくられたりしていますが、子どもが狭い場所に押しこめられたり、生活環境の悪い場所で育つことを許していいのでしょうか。面積基準はもとより、土地の選定については、設置主体者がどこであろうと、子どもが育つ場所としてふさわしいところなのか、自治体が責任をもって選定・判断すべきです。
 遅きに失した感はありますが、財務省が国有地のリストを公開しました。各自治体は、こうした情報も活用しながら公有地の利用を推進していくことが必要です。 

B認可保育所に入れなかった人すべてを待機児童としてカウントすること
 保育所増設計画の策定にあたっては、待機児童数の正確な把握が必要です。ところが、国がいかようにも解釈できる基準を設けているため、算出基準が各自治体でバラバラになっています。
 潜在需要の問題もありますが、まずは、待機児童数は認可保育所の入所希望者数から認可保育所に入れた人を引いた数、つまり認可保育所に入れなかった児童とすべきです。これは、児童福祉法24条の規定からみても当然の判断であり、その数を基に保育所整備計画を策定することが待機児童解消の第一歩になると考えます(iv)

C営利企業の参入については、子どもの権利保障の観点から慎重に検討すること
 保育所への営利企業参入は、保育の質が保たれるか、また公費の流出や撤退の危険性から公費の有効的な活用がなされているかなど、さまざまな問題が指摘されています。そのため、営利企業参入については、今より厳しい規制と監視が必要であり、国をはじめ各自治体も参入については慎重に対応すべきです。
 不安のある営利企業の参入推進ではなく、社会福祉法人など公共性の高い主体による設置を促進させる国・自治体の支援を拡充すべきと考えます。

D保育士の処遇改善をはかること
 保育士不足が深刻化しています。事態改善のため、保育士の資格要件緩和が検討されていますが、このことは保育の質の低下に直結するため、反対です。資格要件緩和ではなく、保育士の処遇改善を図ることが必要です(v)。国は、今年度に限って保育士の給与等改善のための予算をつけましたが、抜本的改善に向けて、保育所運営費を大幅に増額させること、そのお金が職員の処遇改善に確実に使われる規制を設けることを提案します。また、認可保育所に限らずどの保育施設も職員は全員有資格者にすべきと考えます。

E保育所を拠点とした地域の子育て支援ビジョンを示すこと
 少子化を理由に、保育所増設に慎重になる自治体もあります。しかし、子育て支援の蓄積のある保育所は、たとえ少子化がすすんだとしても子育て支援の拠点として活用できます。将来的な不安があるからといって保育所増設に二の足を踏むのではなく、子育て支援ネットワークづくりのビジョンを示しながら保育所整備計画をたてていくことが大切です。
 また、入所児童が減少したとしても、質の抜本的改善を図るチャンスととらえ、施設面積や職員配置基準、安定した経営ができる補助金のあり方について検討する必要があると考えます。


  1. 当会では、毎年、待機児童解消に向けて認可保育所の増設や保育所関連予算の増額を求める国会請願署名を行ったり、2009年、2010年には電話相談「保育所ホットライン」を開設し認可保育所に入所できなかった保護者の切実な生の声を集め深刻な状況を明らかにしたりなど、さまざまな取り組みを行っています。
  2. 認可保育所に入れなかった1746名から、@認可外保育施設である横浜保育室などに入所した877名、A育休延長203名、B自宅で求職中100名、C1か所または第一希望の保育所など特定保育所を希望している566名を引いてゼロと発表しています(2013年5月20日「平成25年4月1日現在の保育所待機児童数について」横浜市記者発表資料参考)。
  3. 横浜保育室は、ゼロ・1歳児一人当たりの面積は2.475u(2013年度以降は3.3u)、有資格者の割合は3分の2の基準で運営されています。人員配置についてはゼロ歳児は4対1と国の認可保育所基準よりも低いものの、1・2歳児は国基準6対1より手厚い4対1となっています(3歳以上は国と同基準)。
  4. 参考までに、東京都杉並区は、2013年4月の認可保育所申込者数は2968名に対し、認可保育所に入園できた人はおよそ1340名でした。つまり、認可保育所に入れなかった人は約1600名となりますが、待機児童94名と公表しています。
  5. 2012年の賃金構造基本統計調査によると、民間保育施設の平均給与は全職種平均より9万円低くなっています。

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