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【12.05.11】保育を市場化し、子どもの権利を侵害する「子ども・子育て新システム」関連法案を廃案に

保育を市場化し、子どもの権利を侵害する
「子ども・子育て新システム」関連法案を廃案に

「子ども・子育て新システム」関連法案の審議にあたって

2012年5月11日
全国保育団体連絡会

 「子ども・子育て新システム」(以下、新システム)関連3法案が、他の「社会保障・税一体改革」関連法案とともに国会に上程されました。消費税増税法案を何としても通したい政府は、国会に新たに設置された「社会保障と税の一体改革に関する特別委員会」で、消費税増税分を財源にするのだからと、多くの法案に紛れさせて新システム関連法案も一括審議しようとしています。
 わが国は、子どもの権利条約を批准(1994年)していますが、新システム関連法案には「子どもの権利」、「子どもの最善の利益」などの文言がまったく見られません。このこと一つとっても、新システムは「子どもの権利」軽視のシステムであると断言できます。
 政府は、「新システムでは市町村の保育実施義務はなくなるが、市町村には今より重い責務が課される」「市町村は保育の利用保障を全体的に下支えする」などと説明しています。しかし、法案をみれば、市町村の保育における責任が後退することは明白です。保護者は施設と直接契約しなければ保育を受けることはできません。保育の提供に関わる直接契約について、市町村は第三者にすぎないのです。施設と契約が結べず保育が利用できない場合に、保護者が市町村の責任を追及しようとしても、その術はありません。
 日本弁護士連合会(日弁連)が「子ども・子育て新システムの関連法案に関する意見書」(2012年4月12日)で指摘しているように、子ども・子育て支援法案に規定されている市町村等の「責務」は、市町村等が子ども・保護者に対してなんら法律上の責任を負うものではなく、政策的な宣言にすぎません。
 私たちは、このように問題のある新システム関連法案が、十分に論議される保障のない特別委員会で審議されることに大きな不安と危惧を抱いています。また、法案は非常に複雑で難解であるだけでなく、多くの事項が制度施行までに定められる政令や内閣府令などに委ねられ、重要な基準などが国会審議を経ずに決められるように設計されていることも、民主主義の観点から問題があると考えています。
 私たちは新システム関連法案は廃案にすべきであり、子ども本位の制度改革を進めることを国に求めるために、国会での審議開始にあたって、改めて新システムの問題点を指摘します。 

1.市町村の責任を後退させ、子どもの権利保障をないがしろにする新システム

 市町村の保育実施義務を定める児童福祉法24条第1項が改変され、「市町村は」「児童に必要な保育を」「確保するための措置を講じなければならない」となって、市町村が直接保育を実施する義務はなくなります。ここでいう「措置」は具体的な処分を示すものではなく、保育が不足している時の利用調整や利用要請を行うことをさし、保育に対して市町村が直接責任を負うことはありません。
 また、市町村は保護者の申請に基づいて保育の必要性を認定するだけになり、保育の利用に責任を負いません。保護者は、これまで市町村に入所申請し、市町村と契約すればよかったのですが、新システムでは、市町村に認定の申請をし、認定を受け、認定に基づいて自分で施設を探し、施設と直接契約をしなければならなくなり、確実に負担が増えてしまいます。そして、子どもが施設等に入所できなくてもそれは保護者の自己責任であり、これまでのように市町村の責任を追及することはできません。

2.公費が保育以外に流出し、保育の市場化が促進される新システム

 新システムでは、施設に出されていた補助金が保護者に対する個人給付金に変わります。給付金は新システムで参入が期待されている企業も含めた事業者(施設)が代理受領しますが、これを配当や他の事業に回すことが可能になります。つまり子どものために支出される公費が、事業者の儲けとして歯止めなく流出できるようになるのです。
 総合こども園についてのみ使途制限や配当に上限規制をかけるとしていますが、同一法人が運営する指定こども園や指定地域型保育事業者にかかる事業には、その「残余額」を使えるようにするなどの抜け道が用意されており、その規制は形式的なものです。
 また、新システムになると、配当等として公費が流出してしまうだけでなく、認定や給付費管理に関わるシステム開発費が新たに必要になります。さらに、市町村・各事業者は増大する事務をこなすために新たな負担が強いられるようになります。保育の財源が確保されたとしても、条件の改善や保育者の人件費の向上に振り向けられないという問題もあります。
 さらに、公定価格に基づく利用者負担に加えて上限なき上乗せ徴収が認められ、保護者負担は確実に増えることになるでしょう。経済力がなければ必要な保育が受けられなくなる恐れがあるのです。
 新システムは子ども本位に保育を充実させる制度ではなく、営利企業本位の制度であり、保育の市場化の促進策といえます。

3.保育の基準を多元化、保育の質の向上は望めない新システム

 新システムでは、一定の基準(指定基準)を満たした事業者はだれでも保育事業に参入できる事業者指定制度が導入されますが、総合こども園(総合こども園設置基準)の他に、こども園(こども園指定基準)、地域型保育事業(地域型保育事業指定基準)が、それぞれ異なる基準として設定されることになります。特に地域型保育事業は、ビルの一室でも保育ができる小規模型保育や家庭的保育など多様な形態の保育が、こども園より緩い基準で実施できるようになります。このことは、国際的にも低水準の現行最低基準を下回る条件での保育を容認することであり、保育の質の低下は必至といえます。
 保育の質の向上を図り、すべての子どもに質の高い保育を保障するのであれば、基準の多元化を認めるのではなく、小規模施設でも質の高い保育が可能になるような条件整備こそ求められるべきです。

4.幼保一体化といいながら、保育と幼児教育を区別し、保育を分断する新システム

 政府は、新システムは幼保一体化(総合こども園)によって、質の高い学校教育と保育を一体的に提供することができ、そのことで待機児童の解消もできる、と説明してきました。しかし最終的には幼稚園には存続も含めて多様な選択肢を残し、さらにこども園、地域型保育事業など多様な形態の施設、事業者が併存する、とても一体化とはいえないものになりました。
 また、一体化施設とされる「総合こども園」への移行についても、民間保育所は3年、公立保育所は10年、幼稚園は期限も示されないなど、政策的な展望も計画性もありません。
 さらに、新システムでは、保育を「養護及び教育」と定義したものの、総合こども園等で行われる3歳以上の「学校教育」は除くとしました。幼保一体化といいながら、保育と幼児教育をことさら区別し、これまで積み上げられてきた保育の専門性や価値を低めるものです。
 そして、保育の必要性の認定において、短時間利用の区分を設けることで、これまで同じ保育を受けることができた子どもを分断することも問題です。短時間保育の導入は、保護者の就労状況によって、子どもの1日の生活を保障すべき保育をつぎはぎにしてしまうのです。

 以上の問題点を踏まえると、新システムは、子どもの権利を法的に位置付けないだけでなく、子どもの日々の生活の積み重ねのなかで豊かな発達を保障する保育という営みを壊してしまうものであることがハッキリしました。
 政府は、「現行制度と大きく変わらない」とも説明していますが、それならば、いたずらに制度を変更する必要はなく、財源を確保して条件整備を進めれば事足りるはずです。
 被災地では大震災から1年がすぎてなお、保育所や幼稚園の再建、放射能対策など、子ども分野の復興は遅々として進んでいません。また、日本の社会全体を見ても、子どもの貧困や虐待問題は年々深刻化しており、その対応は急を要しています。こうした状況を踏まえるなら、保育・子育てを自己責任にする新システムではなく、すべての子どもの権利を保障する現行の公的保育制度を拡充することがいっそう重要なのではないでしょうか?
 私たちは、新システムではなく、公的責任を明確にした現行制度を拡充し、充分に財源を保障することで、子ども本位の制度を実現することが可能であると考えています。私たちは、公的責任に支えられたよりよい保育を実現するために、地域から創意あふれる実践と運動を進めていきます。
 そして保育・幼児教育関係者だけでなく幅広い国民のみなさんに、新システムを撤回し、よりよい保育の実現を求める運動への共同を心から呼びかけます。

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