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【08.12.27】厚生労働省・少子化対策特別部会「第1次報告(案)」に対する全保連の見解

すべての子どもの保育保障は、
充分な財源措置による現行保育制度の改善でこそ

待機児解消、子育て支援を口実にした「新たな保育の仕組み」導入
=公的保育制度解体は許さない


厚生労働省・少子化対策特別部会「第1次報告(案)」に対する全保連の見解


 12月16日、次世代育成支援のための新たな制度体系の設計に向けて「新たな保育の仕組み」について議論してきた厚生労働省・社会保障審議会少子化対策特別部会(以下、特別部会)は、これまで保育の実施に責任を負っていた市町村の役割を大きく後退させる「第1次報告(案)」と「今後の保育制度の姿(案)−事務局の整理による考え方の比較表」(以下、「比較表」)をとりまとめました。特別部会は9月以降11回の会合を開きながら、具体的な制度のあり方についての議論をほとんどしてきませんでした。にもかかわらず12月9日に事務局である厚労省から出された提案を、1週間後に了承してしまったのです。
 「比較表」には、@現行制度維持 A新たな保育の仕組み B市場原理に基づく直接契約、の3案が併記されていますが、厚労省が推進したいA新たな保育の仕組み(以下、「新制度案」)の詳細が明確にされないまま、特別部会では「新制度案」を基本に、今後、制度の詳細な設計をすすめていくことが確認されました。
 しかし、保育制度に関わる論議を当事者である保育事業者や利用者を加えずにすすめたことに対し、保育3団体(日本保育協会、全国私立保育園連盟、全国保育協議会)から大きな反発がありました。さらに厚労省が提案した「新制度案」に多くの不明点や疑問点、問題点があるとして、現行保育制度の改善による制度「改革」を求める日本保育協会や全国保育協議会は、「新制度案」に反対、あるいは保留の意志を表明しています。こうしたことから、年内を目指した「第1次報告(案)」のとりまとめは、年明けに持ち越されました。
 いま、「新制度案」の問題点をあいまいにしたまま保育制度「改革」がすすめられるとしたら、保育所も保護者も大きな混乱に巻き込まれることは必至です。私たちは「新制度案」の問題点を明らかにしたうえで、すべての子どもの育ちの保障と、仕事と子育ての両立支援を実現するための提案をするものです。

「新制度案」では市町村の保育保障責任はありません
 厚労省が提案する「新制度案」の最大の問題は、現行の公的保育制度における市町村の保育保障責任をなくすこと、つまり市町村が保育の実施主体でなくなることです。その結果、市町村の関与は限定され、保育にかかわる責任が保育所と保護者に押しつけられることになります。
 現行制度は、保育にかかわる諸問題を保育所や保護者任せにすることなく、市町村が保育の実施主体として最終的な責任を負っており、これが保護者と保育所の安心につながっています。ところが「新制度案」では、この市町村の役割が大きく変質しています。

保護者に対する市町村の責任は要保育認定をするだけです
 「新制度案」では、保護者の保育所入所申込みに対して受入保育所を決め、保育を実施する市町村の責任がなくなります。市町村は、介護保険の介護認定と同様に、保育を必要とする子どもと保護者の申請に対し、要保育認定をするだけです。要保育認定を受けた保護者は、自分で保育所を探し、保育所に直接入所を申込み、入所の契約を結びます。希望する保育所の定員がいっぱいで入所先が見つからなくても、市町村は責任を負いません。現行制度では待機児童の解消は市町村の責任であり、何らかの手だてをとらねばなりませんが、新制度では市町村の保育実施責任はないので、もはや待機児童という言葉すらなくなります。
 また、市町村には要保育認定を受けた子どもが保育サービスを利用した場合に限ってのみ、認定度に応じた補助金を給付する義務が生じます。要保育認定も公費抑制のために認定基準が厳しくなり、必要な保育時間が保障されないことも予想されます。

市町村と民間保育所の委託関係はなくなります
 これまで民間保育所は保育の実施に責任を持つ市町村の委託を受けて、市町村にかわって保育を実施していましたが、市町村の保育実施責任がなくなることで、必然的に委託関係もなくなり、保育の委託費として支弁されている保育所運営費の支払いはなくなります。したがって市町村への補助金の請求や保育料の徴収は保育所の責任になり、事務量が一気に増えます。最低基準を維持・向上させる責任も保育所だけに負わされることになります。
 「新制度案」では保護者向けの補助金を保育所が代理受領するため、現行制度同様のお金が市町村から保育所に支給されるように錯覚しがちですが、保育所が受け取るお金の性格はまったく異なります。基本的に補助金は利用時間に応じて給付され、これまでの保育単価のように定員や施設規模に対応するものではないため、保育所運営が困難になることは必至です。「新制度案」が保育所の経営に大打撃を与えるであろうことは、そのモデルとされる介護保険や障害者自立支援制度のもとで、日々の施設運営が大きな困難を抱え、制度そのものの見直しが求められていることからみても明らかです。
 厚労省は保育所が代理受領する補助金に施設整備費(減価償却費)相当額を上乗せするので、運営費用も増え施設整備がすすむとしています。しかし、介護など改革を先行させた他の制度でも施設整備がすすんだと言い切れる状況にはありません。またこの措置がなされた結果、今後施設整備補助がなくなる、あるいは対象が厳しく限定されることが予想され、施設整備はいっそう困難になると思われます。さらにいえば、施設が代理受領する補助金は使途を制限できないため、企業運営の保育所等において、補助金が保育の充実のために使われずに流出することを規制できず、せっかくの公費が保育のために使われない恐れがあります。
 保育サービスの供給量を増やすために、認可制度をやめ事業者の指定制を導入するとしていますが、供給量を増やすことを名目に指定基準が限りなく緩和されていく危険性があります。また、家庭的保育制度を含む施設型以外の在宅保育が、代替サービスとして容認されるようになるのは必至です。そうなると、保育の質を守ることはより困難になります。さらに指定制度には自治体の裁量権がなく、指定基準をクリアすれば誰でも指定業者になることができるので、新規参入を規制できず、都市部では施設同士の過当競争が激化する地域も出てくるでしょう。一方、多様な事業者の参入が期待できない過疎地では、市町村の保育保障責任がなくなれば公的対応は後退せざるを得ず、保育難民が生まれることにもなりかねません。

公立保育所の廃止・民営化がすすみます
 市町村の保育保障責任があるからこそ存立してきたといえる公立保育所はその存在の根拠を失うことになり、公立保育所の廃止・民営化は一気にすすむでしょう。さらに同様の理由で、国基準では不十分だとして支出されてきた民間保育所向けの自治体単独補助も、再編・縮小されるでしょう。

「新制度案」は市場化案にほかなりません
 厚労省は、市町村責任をなくすという「新制度案」の最大の問題をストレートに説明すれば受け入れられないだろうとの判断からか、非常にあいまいな表現で「新制度案」を説明しています。
 厚労省の説明では、3案併記の「比較表」の市場化案(特別部会の論議のなかでも誰も主張していない)は否定しながら、現行制度については「保育の実施」に例外規定を認めているなどと問題があるように位置づけ、その一方で「新制度案」は、市場化案と比較しても公的関与もあり、現行制度とそう変わらないから安心だと思わせるような表記をしています。しかし、「新制度案」は現行制度に近いどころか、市町村の保育保障責任をなくし、保育を利用者(保護者)と事業者(保育所)の売買契約に委ねる市場化案を一部手直ししただけのもので、問題が噴出している介護保険や障害者自立支援制度と基本的に変わらない制度といえます。
 たとえば市町村は保護者に対し、保育の必要性と量について例外なく受給権を付与すると説明していますが、ここでいう受給権とは、実際に保育サービスの利用がなされた場合に補助を受ける権利にすぎません。
 さらに、「新制度案」では現行制度同様に市町村が「保育の実施」をするように説明していますが、これは現行制度の保育の実施責任とは似ても似つかないものです。
 まず、市町村の責任と図示されている保育費用の給付義務とは、要保育認定を受けて保育所利用がなされた場合にのみ、保護者に補助金を支払う責任にすぎません。保育所不足で入所できない、保育料が高くて必要な保育が受けられない等の事態となっても、その解決を市町村に求めることはできません。
 また、市町村の保育所への責任である保育サービスの提供体制整備責任は、整備計画を立てて企業などの事業者を誘致する努力義務が課せられるだけと予測されます。同じく利用調整等の支援ですが、入所の判断は保育所が行うため、市町村ができることは保育所や第三者としてのコーディネーターが行う利用調整などを「支援」するにすぎません。

「新制度案」は市町村の責任を保育所に押しつけるものです
 利用者と保育所の関係では、受給権に基づき新たに「公的契約」が結ばれるとしていますが、これは民法上の私的契約に他ならず、世論の反発をさけるために「直接契約」という言葉を言い換えたにすぎないのものです。さらに、保育の必要度の高い子どもが排除されるのでは、との批判をかわすために、保育所に応諾義務(正当な理由なく拒んではならない)と優先受入義務を課すとしていますが、これは市町村責任をなくしたツケをすべて保育所に押しつけるものです。応諾義務自体、正当な理由があれば入所を断ることは可能であり、利用者にとっては何の安心にもならないものです。
 一方、保育所にとって保育料の滞納は保育所経営に直結する問題となります。滞納は即退園につながるでしょう。一部未納について市町村が対応することも今後検討するとしていますが、それが実現したとしても非常に限定された部分に限られます。

利用者負担の問題が全く説明されていません
 今回の「新制度案」の問題は、保育料負担のあり方にまったくふれていないことです。「比較表」では、保育サービスの価格は公定価格(公費による補助額+利用者負担額)を設定するとしていますが、公定価格が設定されるのは要保育認定に応じた保育の基本部分だけといわれています。介護保険や障害者自立支援制度の現実をふまえれば、保育料は現行制度の応能負担原則ではなく、利用量(時間)に応じて負担が増える応益負担(定率負担)の原則が適用されることは確実であり、利用者負担が増えることは必至です。介護保険でも、障害者自立支援制度でも、この利用料負担の重さに耐えかねて、サービス利用を断念する事例が多数報告されています。
 また、利用時間に比例して保育料額が増えることになれば、保護者が保育所利用をギリギリまで抑制する傾向が強まり、その結果、登園・降園時刻が日々バラバラになっていくことも容易に予測できます。「新制度案」は保育のあり方まで大きく変質させるものなのです。

当事者の意見を尊重した改革論議を求めます
 以上のように、厚労省の「新制度案」には不明点や疑問点が非常に多くあります。これらは保育制度改革のモデルとされている介護保険や障害者自立支援制度の実態を見れば、容易に想像できるものです。新制度の提案をするのであれば、そうした先行事例の充分な検討をふまえたうえで、具体的な内容も示して現行制度と比較検討し、課題解決の展望も含めて慎重な議論の上に行われるべきです。直接契約導入など、はじめに結論ありきの議論は容認できません。

保育関係者の反対で制度「改革」は止められます
 厚労省は、制度「改革」をすすめなければ、規制改革会議の提案する市場化論に押し切られる、民間保育所の運営費も一般財源化されてしまうなどと危機感をあおっています。しかし規制改革会議の第3次答申(2008.12.22)で提案された内容は、厚労省の「新制度案」とほとんど変わらないものであり、民間保育所の運営費の一般財源化にしても、厚労省自らが「そうした傾向がある」としているだけで、現時点では争点になっていません。必要なことは、こうした声に惑わされず、厚労省のすすめる保育制度「改革」を許さない声を上げることです。いま、保育関係者がこぞって反対すれば、保育所にも利用者にも大きな困難をもたらすであろうこの改革を止めることができます。

制度「改革」よりも認可保育所の増設、基準の改善を
 制度「改革」の前提となっている、すべての子どもの育ちの支援と、仕事と子育ての両立のための保育サービスの質的・量的拡充をすすめるためには、現在2万2千か所を超える保育所が220万人を超える乳幼児の保育を担うまでに到達した、実績ある現行保育制度を基本にすることが最も確かな道です。保育の需要増に対応できない現状を生み出した要因は、現行保育制度にあるのではなく、戦後60年以上もほとんど改善されていない最低基準など条件改善の遅れや、世界的にみても大変貧しい保育・子育て予算にあります。問われるべきは現行制度ではなく、保育所整備をすすめてこなかった国の政治姿勢そのものです。
 いたずらに制度をいじって混乱をまねくのではなく、いまこそ「未来への投資」として現行制度の拡充に必要な財源を確保し、現行制度を基盤に認可保育所の整備をすすめれば、すべての子どもたちを対象にした保育施策の拡充、新たな保育需要に対応してくことは充分可能です。
 私たちは保育制度「改革」の議論にあたっては、保育事業者、保護者など当事者の意見を最大限尊重しつつ、子どもの権利最優先の保育・子育て支援策の実現のために、現行制度の拡充による保育・子育て支援施策の拡充、予算の大幅増額、地方財政の強化と保護者への充分な配慮などを強く求めるものです。

2008年12月27日
全国保育団体連絡会



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