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【08.10.07】「保育サービスの提供の新しい仕組み」に対する私たちの見解

社会保障審議会少子化対策特別部会が提起する
「保育サービスの提供の新しい仕組み」に対する私たちの見解


すべての子どものすこやかな成長・発達の保障は現行保育制度の拡充で


 私たちはこれまで、保育需要が急増する状況のもと、保育を必要とするすべての子どもたちにゆきとどいた保育が保障されるよう、保育所の条件整備とあわせて障害児保育や一時保育、病児・病後児保育、子育て支援などの充実について、現行保育制度の堅持・拡充を基本にした国の積極的な対応と予算措置を求めてきました。
 ところが国は、少子化対策の効果があがらない原因は保育制度にあり、その解決のためには保育制度「改革」が必要であるとして、昨年末から厚生労働省の社会保障審議会少子化対策特別部会において「次世代育成支援のための新たな制度体系の設計」を課題に議論を開始しました。そして2008年5月に「新しい保育(準市場)メカニズム」を基本に保育制度設計をすすめるとして、「次世代育成支援のための新たな制度体系の設計に向けた基本的考え方」をまとめました。これをふまえてこの9月から具体的な制度設計の論議が再開され、年内にとりまとめがされる予定です。
 保育の制度設計については、9月30日の第12回会合において「保育サービスの提供の新しい仕組み」に関する提案(検討の視点)が示されましたが、当面保育制度改革に関する論議は10月6日の第13回会合で終えることになっています。しかしこの提案には非常に大きな問題があります。この提案の方向で結論が出されれば将来に禍根を残すことは必至と言わざるを得ません。
 少子化対策特別部会の提案の何が問題か、以下見解をのべるものです。

現行保育制度解体を前提に、はじめに制度改革ありきの提案
 最大の問題は、これらの提案が現行保育制度の解体を前提にしたものであり、利用契約制度(直接契約制度)導入など、はじめに結論ありきの提案になっていることです。そのために現行制度を否定しつつ、すでに利用契約制度となっている他の社会保障制度(介護と障害)を対比させ、保育制度についても利用契約制度へ移行することが問題解決になるとの結論を導くような提案をしています。
 たとえば、現行制度について「認可保育所が足りない場合、保護者が保育サービス利用に係る支援を受けられないことを許容する仕組み」であると、非常に無責任な制度のように説明していますが、児童福祉法上の自治体の保育実施責任は重く、上記のような解釈は法学上の常識や裁判の判例から見てもありえないものです。保育の実施責任を負う自治体が、現行制度のもとで保育所整備など待機児解消のためにどれだけ努力を重ねてきたのか、そうした自治体の役割にあえて目をつぶっていると言わざるをえません。
 保育所を利用する保護者が求めることは、保育所が安心して子どもを預けられる場所であることにつきるといえます。そして保育事業者が求めることは、利用者である保護者との信頼関係のもとで安定的な保育所運営ができることです。何より自ら主張することができない子どもの保育を守るためには公的責任が不可欠です。これらの保障となるのが国と自治体の責任を定めた現行保育制度であるといえ、責任の所在が明確になっていることが保育への信頼につながっているのです。
 これに対し、改革のモデルとしている介護、障害の制度は、「行政の認定に基づき受給権が発生」するとして利用者の権利が保障されるように説明しています。しかし両制度の実態をみれば、@利用者の実態や必要度に応じた認定がされない A認定がされても応益負担の利用料が高く、利用を断念するケースが多い B施設を探し、施設と契約するのは利用者の責任であり、利用認定=サービス利用にはならない C行政の基盤整備責任は形だけのもので施設整備がすすんでいない D供給拡大を急ぐあまり事業者指定基準や審査がおざなりで問題のある事業者が放置されてきた E施設経営の困難化や労働者の処遇条件の劣化と人材確保の困難、などの問題が指摘されており、厚生労働省が説明するようなバラ色の制度とはとうてい思えません。とりわけ自治体責任の後退がどのような問題を引き起こし、利用者を不安にしているか明らかにすべきです。
 新制度を提案する以上は少なくともその具体的内容を示したうえで現行制度との比較検討を行うなど、慎重な議論が求められるべきです。

利用者である保護者、保育サービスを提供する保育事業者の声を尊重して
 問題の第2は、保育制度改革の当事者、保育所利用者である保護者と保育サービスを提供する保育事業者の意見が全く反映されていないということです。部会では保育事業者団体(保育3団体)、利用者団体である「保育園を考える親の会」などのヒアリングが行われています。ここでは、どの団体も保育制度改革には反対の意思表示をしています。また、保育制度改革に関する保育現場の意見を聞くために設置された「次世代育成支援のための新たな制度体系の設計に関する保育事業者検討会」では、保育事業を経営する企業の代表までが、供給量が不足している都市部での直接契約導入は好ましくないと発言するなど、関係者からの保育制度改革に対する積極的な賛同は皆無です。

だれのための制度改革か−子どもの権利最優先で、拙速な議論はさけるべき
 問題の第3は、部会の議論のなかで、労働力確保や少子化対策のために制度改革しなければ、持続可能な社会保障制度が確立できない、保育の量的拡大が急務であり保育の質にこだわって保育制度改革を否定するような状況ではない、というような発言が見られることです。待機児問題の解消は切実な課題であり、明日を待てない子どものためにも早急に解決することは必要ですが、認可保育所の利用者だけ利益をえることが問題であり、認可外保育所の利用者のことを考えれば多少の水準の低下はがまんできるはず、というような考え方には、子どもの権利保障の立場から賛同できるものではありません。保育の質に直結する諸条件を低下させることは、子どもの命と発達を軽視することです。
 保育制度改革の主人公は子どもであり、保育制度改革の目的はすべての子どもの権利保障であるべきです。1人ひとりの子どもの幸せが家族の幸せや社会の幸せにつながります。保育制度改革の課題は社会全体として保育水準を向上させることであり、「不公平」の是正のためとして保育水準の低下を強いることは本末転倒といえます。

現行の公的保育制度の拡充で対応できる
 日本の保育所は、戦後60年以上にわたって国と自治体が責任を負う公的保育制度のもとで実践をつみあげ、条件整備をすすめながら、子どもと保護者の生活と権利を守り、地域の子育てを支えてきました。いま認可保育所は2万3000カ所、入所児童は220万人にまで到達し、保育制度の根幹を担っています。認可保育所に対する期待と信頼は保育所利用者だけでなく、地域の子育て家庭にも広がっています。特別部会では認可保育所を利用できないことの不平等が強調されていますが、待機児童も含め30万人程度といわれている認可外保育所の利用者も、また地域の子育て家庭も、認可保育所の利用を切望しています。そのねがいに応える最善の方策は、実績ある現行保育制度を基本にして認可保育所を拡充していくことであり、それが最も確かな道であるといえます。
 そのためには、@国として待機児童解消のための緊急保育所整備計画の策定と特別な予算措置、A国が定める児童福祉施設最低基準(保育所の施設設備基準、職員配置基準など)の抜本的改善、B保育所、幼稚園、学童保育における子育て支援施策の拡充のための予算増額と専門職員の配置、C保育所、幼稚園、学童保育などの職員の処遇の改善、などが課題といえます。
 すべての乳幼児の成長と発達をねがうのであれば、これまで保育の発展を支えてきた現行保育制度の評価にたって問題点と改善の課題を明らかにするなど、実証的な議論こそが必要です。そうした作業もなしに、保育制度改革と称して現行制度をやみくもに否定し、直接(利用)契約制度など未だ評価が確定せず、改革の方向が模索されている制度を保育に持ち込むことは、いたずらに混乱を招くことにつながりかねません。ましてや改革の具体的な内容を示さないまま制度を変えればうまくいくというような提案は問題ではないでしょうか。それは鳴り物入りで導入された後期高齢者医療制度の混乱ぶりをみても明らかです。
 保育の需要増に対応できない現状を生み出した要因は、現行保育制度にあるのではなく、戦後60年以上もほとんど改善されていない最低基準など条件改善の遅れや、世界的にみても大変貧しい保育・子育て予算にあるのです。問われるべきは現行制度ではなく、子どもをないがしろにする国の政治姿勢そのものです。公的責任が明確な現行制度の拡充でこそ、子どもの権利、保護者の権利が保障されることを忘れてはなりません。
 私たちは子どもの権利最優先の保育、子育て支援策の実現を求める立場から、国に対し現行制度の解体ではなく、現行制度の拡充による保育・子育て支援施策の拡充、予算の大幅増額、地方自治体や保護者への十分な配慮を求めます。また、保育制度改革の論議にあたっては、すべての乳幼児の成長と発達に重大な責任を負っているという自覚にたって、責任ある議論を尽くすことを要請します。
 

2008年10月6日
全国保育団体連絡会

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