全保連 全国保育団体連絡会 お問い合せはこちらから (平日午前10時〜午後5時まで)TEL:03-3339-3901/FAX:03-3310-2535
HOME 出版案内 保育研究所
NEWS(全保連の活動) 研修・セミナー 合 研 全保連の紹介
見解・声明

<< 「見解・声明」の目次に戻る印刷に適したページ >>

【06.03.13】〔見解〕「認定こども園」(総合施設)について

 政府は06年度10月からの「認定こども園」(総合施設)本格実施に向けて、「就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律」(案)を3月7日に閣議決定し、国会に上程しました。
 この間議論されてきた内容や、提案された法律案をみると、政府が創設しようとしている「認定こども園」は、(1)幼稚園・保育所双方の認可基準の切り下げ、認可外施設の公認化をすすめ、(2)保育所に直接契約制度、保育料の自由設定方式を導入し、憲法・児童福祉法に基づいて国と自治体が責任を負う公的保育制度の「解体」に道を開くなど、子どもの権利をないがしろにするものであり、認めることはできません。
 少子化が急激に進行するなかで、都市部を中心に保育要求が高まり待機児童の増大による保育所の拡充が求められています。一方、過疎がすすむ町村では、自治体の財政難から既存の施設の維持が困難になっており、保育所と幼稚園それぞれの役割を維持しつつ、これを「一体化」して運営する方向が模索されている例もあります。国民が求める乳児保育の拡充、幼保の連携、子育て支援の拡充や制度化、過疎地での柔軟な対応などに応えるのであれば、少なくとも幼稚園、保育所がこれまで長年にわたって果たしてきた役割や機能をふまえ、それらの条件や内容、制度をさらに発展させるものでなければなりません。政府はそうした願いに応えるかのような幻想をふりまいており、期待する向きもありますが、「認定こども園」は国民の願いに背を向け、保育所・幼稚園の制度を形骸化するものに他なりません。
 全国保育団体連絡会は、どの子どもにもゆきとどいた保育と教育を受ける権利保障の拡充を求める立場から、「認定こども園」について、以下の見解を述べるものです。

1.
 「認定こども園」構想は2003年6月、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」(骨太方針第3弾)の「国庫補助負担金整理合理化方針」のなかで「新しい児童育成のための体制の整備」として、突如、設置が提案されました。そのねらいは、保育所や幼稚園とは異なる新たな制度の枠組みを提示するとしながら、現行保育水準の大幅な切り下げによる財政削減と、保育・幼児教育を国民の権利としての福祉・教育の枠組みからはずし営利の対象にしていくこと、すなわち子どもの権利保障のために機能してきた保育所・幼稚園制度の「解体」にあると指摘せざるをえません。それは、規制改革・民間開放推進会議の第一次答申(2004.12.24)が「『認定こども園』の施設設備等に関する各種規制の水準については、現行の幼稚園と保育所に関する規制にとらわれるのではなく、どちらか緩い方の水準以下とすることを原則とする」としていることからも明らかです。
 その後、中央教育審議会初等教育分科会幼児教育部会と社会保障審議会児童部会の合同検討会議において「認定こども園」の内容に関する議論が重ねられ、2004年12月24日、「認定こども園」に関する基本構想として「就学前の教育・保育を一体として捉えた一貫した総合施設について(審議のまとめ)」が公表されました。2005年度には総合施設モデル事業が実施され(実際は9月からの実施、35か所)、10月から5回にわたっての総合施設モデル事業評価委員会で設備基準や職員配置、利用料などについて議論がされています。短期間にわずか35か所のモデル事業の評価で十分な検討がされたのかは甚だ疑問です。
 今国会に提案された法律案は、これらの議論をふまえてのものといわれていますが、「認定こども園」の制度に関してはモデル事業評価委員会では議論されておらず、現行保育所制度、幼稚園制度との整合性については表面的に取り繕われただけの提案といえます。「認定こども園」の認定基準に至っては今後政省令で定めるとしていますが、詳細が明らかにされていません。このような段階での法案審議には無理があり、廃案にすべきものと考えます。

2.
 この間、明らかになったことは、法案の提出段階に至っても「認定こども園」の理念・目的を明確に示せないことです。これは「認定こども園」の制度があいまいなことと無関係ではありません。
 当初政府は、「認定こども園」は、(1)保護者の就労の有無に関わらず教育・保育を一体的に提供、(2)地域における子育て支援、の2つの機能を備えるものであり、保育所でも幼稚園でもない「第3の施設」であると説明していました。しかし現在では「第3の施設ではなく、果たすべき機能に着目し、幼稚園・保育所等がその性格を保持したまま認定を受ける仕組みにする」と表現が変化しており、施設の新設は基本とせず、「既存の施設が総合施設となることが困難とならないような対応」をすすめることを求めています。たとえば保育所における調理室の必置規制などが幼稚園の「認定こども園」への転換を困難にするのであれば、規制を緩めるとしています。つまり、「認定こども園」は幼保既存施設の基準を切り下げての転換を容認するだけでなく、児童福祉施設最低基準、幼稚園設置基準を規制緩和し、全体として保育・幼児教育の水準を低下させる役割を果たすものに他なりません。
 また、「認定こども園」は都道府県が認定するとしています。国は認定基準の指針(ガイドライン)を示すのみで、具体的な基準は地方の柔軟な対応を可能とする観点から、都道府県が定めることになっています。認定基準を地方まかせにすることは、乳幼児の教育・保育の基準を国が自らあいまいにすることであり、国の責任放棄といわざるをえず、このことで教育・保育条件の地域格差が広がることは明白です。
 「認定こども園」は、幼保双方の認可をとる幼保連携型、幼稚園のみ認可をとる幼稚園型、保育所のみ認可をとる保育所型、幼保どちらの認可も必要としない地方裁量型の4類型が認められることになっています。それぞれ基準や条件の異なる施設が混在することで財政措置や指導監督のあり方が複雑になることも問題です。幼稚園型も保育所型も一方の認可しかないことが問題ですが、とりわけ地方裁量型では、幼稚園、保育所どちらの認可もない、いわゆる認可外施設が「認定こども園」として容認されることになります。
 児童福祉法24条但し書きに依拠して全国各地で先駆的に良質な保育を追求している認可外保育施設も数多くありますが、今日の認可外施設をめぐる全体的状況は、事故の発生度一つをみても認可施設と比べればきわめて不充分なものであり、認可促進や認可施設の整備も含めて改善が急がれています。政府の提案する「認定こども園」は、規制緩和をすすめ、十分とはいえない幼稚園設置基準、保育所最低基準すら満たさない認可外施設をそのまま公認化していくことに他ならず、子どもの権利保障を大きく後退させ、政策としても問題です。

3.
 保育所の「認定こども園」化は、児童福祉法に基づく現行保育制度を形骸化し、公的責任をあいまいにするという点でも大きな問題をはらんでいます。
 第一に入所の選考の問題です。保育所であっても「認定こども園」の認定を受けた場合は、直接契約を基本とすることになっています。施設は保護者の申込書を市町村に送付し、市町村は「保育に欠ける」状況を施設に通知するとしていますが、市町村の関与はここまでです。定員を超えて申込みがあった場合、入所児童の選考をするのは施設です。ところが、選考の基準は「公正な方法」としか示されていません。現行保育制度では市町村が責任をもって「保育に欠ける」要件認定や保育の必要度の判定を行ってきましたが、「認定こども園」ではその判断は選考する保育所次第ということになります。障害のある子どもや、保育料滞納が予見される生活困難家庭の子どもなどが、「公正な選考」のもとで結果として排除される心配があります。
 第二に、保育料の問題です。保育料は施設の設置者が定めることができることになっており、それが法外な額であった場合、市町村は変更を命ずることができるとしていますが、少なくとも現行の保育所徴収金基準額(3歳未満児8万円、3歳以上児7万7千円)を目安として設定されれば変更を命ずることはありえないと考えられます。均一保育料ではなく所得に応じた保育料を設定するには保護者の所得把握が必要です。保護者は所得証明等を施設に提出しなければならないのでしょうか。一方で、子どもの少ない地域では、低価格競争による子ども集めがされないとも限りません。低価格競争は保育の質の低下や保育条件の悪化に直結します。
 このように入所の選考も保育料設定も施設が行う「認定こども園」は、現行の認可保育所と比べれば市町村の関与はきわめて小さく、既存施設の「認定こども園」への転用がすすめば、児童福祉法24条に基づき市町村が責任を負う公的保育制度はなし崩しにされていきます。
 いま、構造改革路線のなかで「認定こども園」の創設は、直接入所方式、保育料の自由設定方式、直接補助方式などの導入による公的保育制度「解体」の足がかりにされようとしています。規制改革・民間開放推進会議の第二次答申(05.12.9)は、保育所における直接入所方式の導入などは「認定こども園」での実施状況をふまえて検討するとしており、「認定こども園」を保育制度「改革」の試行施設と捉えているのです。

4.
 以上、明らかにしてきたとおり、「認定こども園」は理念、目的、基準、公的責任のあり方が非常にあいまいであり、これを制度化することは、これまで関係者の努力によって積み上げられてきた国と自治体の保育水準を切り崩し、公的保育制度の「解体」に道を開くものです。政府は2006年度10月1日施行の法律案を今国会に上程しましたが、認定基準すら明示せず、「認定こども園」の審議をすすめることは保育・幼児教育における国の責任放棄といわざるをえません。
 今後、地域において「幼保の一体的運営」などさまざまな形態による事業がすすむことがあるにしても、それらを自治体や施設まかせにするのではなく、子どもの権利保障の立場から財政負担をはじめとする国の責任を明確にしていくことが不可欠です。少なくとも幼稚園・保育所の現行認可基準よりも低い基準での施設を認定することは認められません。
 進行する少子化と高まる保育要求のもとで、保育行政のあり方が問われています。いま、必要なのは、子どもと働く父母の立場に立った待機児童対策であり、児童福祉施設最低基準、幼稚園設置基準の抜本的改善、すべての子どもの健やかな育ちを保障する子育て支援事業の拡充、これらを保障する保育・子育て予算の大幅増額と施策の拡充です。
 今回の「認定こども園」に関する議論及び「法律案」は、すべての乳幼児が、その必要とする保育・教育を等しく保障してほしいという国民の願いとは全く異なるものであり、規制緩和による財政削減、保育水準の切り下げにつながるものであることを再度強調しておきます。さらに付言すれば、これまで保育に関わる実践研究のなかで積み上げられてきた保育内容に関わる考え方が大きく後退させられようとしていることも懸念されます。
 私たちは、保育のナショナルミニマムをなし崩しにする「認定こども園」の制度化には反対です。今後、政府や自治体に対し、保育制度・政策に関わる検討にあたっては、子どもの権利条約の批准国として経済効率優先でなく、子どもの利益最優先の保育・子育て政策への転換を強く求めていきます。そして、未来の希望である子どもたちの権利が最大限尊重される保育・子育ての公的保障のいっそうの拡充を求める運動を大きく広げていくことを決意します。

2006年3月13日
全国保育団体連絡会



<< 「見解・声明」の目次に戻る印刷に適したページ >>

Copyright 2006 © Zenhoren All rights reserved.
ページの先頭へ ↑